【事例】地主から借地権の買い取りを打診されたが、今売るべきか?
借地権者からのご相談
「東京都M区の借地に住んでいます。先日地主から連絡があり、私の借地を3,000万円で買い取りたいとのことでした。私の借地は50㎡ですが、路線価図では路線価130万円/㎡くらいで借地権割合は70%になっています。
ならば『130万円/㎡×50㎡×70%=4,550万円』となりますし、実勢価格価格では200万円/㎡でも全然安いと言われているので提示された借地権買い取り価格に納得がいきません。買い取り価格アップの交渉や他の方策の検討など、どうしたらよいかアドバイスをください」
人気のエリアに住んでいる方が、知人の紹介で私たちに相談しに来られました。地価も高いエリアですが、当該地は地主が私道を公道に接するように「コの字型」に築造し、昭和10年頃から貸地として貸し出した1街区の住宅地でした。この私道は、幅員が3.3mの建築基準法でいうところの42条2項道路(幅員4mに満たないみなし道路)なのですが、道路中心線から2mセットバックすれば基本的に建物建築ができます。
ただし、もう一つの建築するための条件に「建物の敷地は2m以上接道していなければならない」というものがありますが、この土地は1m弱しか接道していなかったのです。また、建物は昭和30年代にこの借地に再建築された木造2階建で、今回の相談者である借地人が、リフォームしながら居住しているとのことです。
それではこのご相談への回答を、順を追って説明させていただきます。
【借地権問題ドットコムの回答】
1. 地主との交渉はもちろん可能です。いくつかの方向性があります。
2. ご自身の借りている借地について熟知しましょう。そのうえで地主との交渉に入りましょう。
3. このケースの場合、地主に買い取ってもらうことが有利だと思われます。
借地権問題ドットコムでは、上記のように回答させていただきました。
以下、各項目に補足する形で説明してまいります。
解説「1. 地主との交渉はもちろん可能です。いくつかの方向性があります。」
一般的には、下記のような方向性が考えられると思います。
1)地主に借地権買取価格の増額を要求する。
たとえば「3,000万円では売れませんが、4,500万円なら借地権を
お売りします。」という具合です。
2)地主から第三者への売却承諾を得て、3,000万円よりも高くこの借地権を
買ってくれる人を探す。
3)このまま、借地を借り続けるために、建替承諾や大規模修繕の承諾を
要求する
単純に言えば、上記のような3つの方向性について検討するのが通常だと思います。そして、地主との交渉の前に、自身の借地権や借地について調査する必要があります。
解説「2. ご自身の借りている借地について熟知しましょう。そのうえで地主との交渉に入りましょう。」
この土地は法務局で調べたところ、公図・土地登記事項証明書・昭和45年作成の地積測量図がありました。
これらの資料の情報によると、
・この土地は1筆(一つの地番のついた土地)の借地で土地面積は50㎡
・幅員3.3mの私道に接している
・接道幅員は91cm
だということがわかりました。
つまり、現状ではこの土地は2.0mの接道義務を満たせないために、建築基準法上、再建築をすることができない土地だということが判明したのです。そして、接道の東隣は地主の建物、西側は仲の良い人の建物が建っているものの、そちらも接道は2.5mなので、借地の接道部分を広げるために、1mあまりの幅で借地部分を譲ってもらうこともできないことがわかったのです。
解説「3. このケースの場合、地主に買い取ってもらうことが有利だと思われます。」
上記解説2.でこの借地がいわゆる「再建築不可」の借地であるとわかった今、「第三者に売る」という選択肢はなくなったと思われます。「昭和30年代築の建物が建つ借地権」を購入しようというニーズはないと考えられるからです。ニーズがあっても地主からの申し出である3,000万円の買い取り価格を超える価格でないとなりません。
もちろん、再建築そのものが不可能なので、借地権者自身の建て替えも不可能です。ゆえに残された方向性としては、自身で今の建物を小修繕しながら、借地を借り続け住み続けるか、地主に借地権買い取り価格の増額交渉をしたうえで、申し出に応じて借地権買い取りに応じるかのいずれかになると思われます。
また、地主はこの1街区全体を再開発したいと考えており、今が借地権を地主に買い取ってもらうにはまたとない好機だと考えられるのです。
なお、冒頭の相談者の質問に出てくる路線価図の記載事項に絡めて少し付け加えます。
1)各土地の評価は「路線価×面積」でだけ決まるわけではありません。面する道路の数や接道幅、土地の形状や大きさ等で調整をします。ですから「130万円/㎡×50㎡」という単純計算にはなりません。
2)借地権割合「70%」という記載も同様です。相続税算出のときにこの比率を使うということなので、たとえば「この土地の所有権価格は100万円だから借地権価格は70万円だ」ということに単純にはならないわけです。
3)皆様ご存知の通り、路線価はあくまで相続税算出のために敷地が面する道路に価格をつけたものです。一般的に、土地が売買されるときの土地価格は、この路線価よりも高いはずです。
私たちは、以上のように順を追って説明し、今、借地権の買い取り価格値上げ交渉をある程度して、地主にこの借地権を売却するのが良いのでは?とアドバイスしました。
再建築不可の借地権の土地を第三者に売ろうとしても、買い手が付く可能性は非常に低く、つまり、借地権買取価格を付けてくれた今回の地主からの意思表示がまたとない借地権譲渡のチャンスだと考えたのです。